しゃなりしゃなりと

脳内にたまったモヤモヤを吐いていきます

アジャイルがキャズムを超えるとは

新年あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。

仕事始めの最初としてアジャイルに関して、私の今の所感を述べたいと思います。

 

私がCSM(Scrum Masterの認定資格)を取得したのは2010年の3月ですから、今度の3月で3年立つ事になります。Scrumの洗礼を受けた時の事(マスターBasセンセイのリスバーガーの話)は今でも強烈に覚えています。私はエンジニアとしては比較的恵まれており、技術スキルが高いチームで新しい技術やアジャイルのプラクティスに挑戦することが許される環境に身を置いていました。これからの10年(当時29歳)をどうするかを考えたとき、別の環境で自分をさらに磨くことを選択し、ユーザー企業内の現場へと自分の環境を変えました。

 

最初のうちは今まで通りのやり方でうまく成果を出す事ができていました。しかし、自分のチームメイトを呼んでから事態は悪化していきます。チームメイトが今まで通りのパフォーマンスを発揮してもらうための地ならしがまったくうまくいかないのです。価値観の違うエンジニアとの不協和音にはじまり、企画部門とのコミュニケーション不全と、今までいたSIerのコンテキストやプロトコルが全く通用しません。その中で特に一番凹んだのは、企画の様々な要求に柔軟に応える事がむずかしくなってきたレガシーシステムをどうにかしたいというビジネスオーナーからの要望に腹落ち出来る答えを用意し説得できなかった事です。今までの蓄積した知見をすべて総動員してプレゼン資料を作り、役員にプレゼンしましたが、呼び寄せたチームメイトと一緒にチームを組んで成果を出すことが出来る最後のチャンスは訪れませんでした。技術があっても使う機会を与えてもらえなければ、なす術もありません。私は失意のどん底でした。「任せてもらえさえすれば、最高のチームメンバーで最高の成果を出せたはず、なぜそんな判断をするんだ….orz」 

 

そんな中、日本でScrum Masterの研修が2009年12月に開かれて、そのすばらしさに関するブログ記事が盛り上がっていました。当時の私は、「アジャイルでシステム再構築をさせてくれ」というプレゼンの敗北感と、XPに慣れ親しんでいたことから、たいして意識はしていませんでした。「自分はアジャイルの経験者。そんな研修は今更不要。むしろ今の現場の人たちこそが行くべきだ。」そんな思いでした。

 

ところが、事態は急変します。会社としてその研修にコミットすることが決定され、大量に現場のリーダーたちがその研修に参加するという話になっていました。空いた口が塞がらないとはこの事で、「あれだけやってもだめだったのに、なんなんだ?」という気持ちと共に「これだけの人数が参加してアジャイルの理解をしてくるのにアジャイルアジャイル言っていた自分が研修未受講はさすがにマズい」という気持ちになり、研修に参加する事にしました。

 

研修はカルチャーショックでした。今までの自分の中で確立されていた物がすべて崩れました。そしてプリンシプルを得ました。自分の中でアジャイルがきれいに腹落ちしました。そこから今に至る約3年間はサーバントリーダーシップの実践でした。専任のScrum MasterでフルスタックのScrumの運営経験もしました。うまくいかなかったScrumの経験もしました。どんな状況であっても、Scrumというフレームワークがある限りチームメンバーにアジャイルの原理原則を理解してもらい、自己組織化されたチームを作るのは難しくない。そう思えるところまでやっと到達しました。

 

でもね、Scrumはソフトウェア開発チーム/ソフトウェア開発組織に閉じた世界ではうまくいくんだけど、会社運営フレームワークとしてはScrumは使えない。なぜならScrumにおいてソフトウェア開発プロジェクトは所与の条件であり、その条件を作り、維持するためのところ、つまり「キャッシュフロー」の部分はサポート範囲外のフレームワークだから。よって、経営者に対して「アジャイルの必然性」の回答にScrumを担ぎだしてすべてうまく伝えて相手に腹落ちしてもらっても、まったく刺さらない。金の話ができないフレームワークに価値はないというわけ。

 

会社は、損益計算書、貸借対照表キャッシュフロー計算書を必ず作る。ここに並ぶ新しいモノサシ(基準)が必要で、そのフレームワークがScrumを内包する事で初めてアジャイルの必然性を経営に対して納得させられるものと信じている。Lean Startupやビジネスモデルキャンバス/リーンキャンバスなど新しいモノサシの候補が出てはいるが、まだ弱い。数理モデルでかつ、万人が腹落ちするモノサシが必要で、それまでは、新たなモノサシが作られては、キャズムの谷底に投げ捨てらる状況が続くのである。

 

つまり、アジャイルキャズムを超えるとは、ソフトウェア開発部門(機能組織)の外のフィードバックループも完結した状態になるということを意味しており、単一企業さらにはホールディングスレベルで統一的に利用出来るモノサシができるかどうか?そしてそれを使って企業経営ができるか?そういったレベルに到達して、はじめてアジャイルキャズムを超え、これからの時代を生き抜く能力を身につけた企業になる。よって、日本中のソフトウェア開発現場がアジャイルな現場になっても、キャズムを超えたと私は思っていない。

 

自分自身、あと30年以上はビジネスパーソンとして生き続けて行く必要があり、今までの延長線上に幸せな未来があるとは思えないので、これからの時代を生き抜くマネジメントフレームワークをなんとか構築していかなければならない。自分達が先人のバトンを継ぎ経営を革新する時が来ているのである。

 

ありがたいことに、これから応援させて頂く現場は、まさにこの課題に真っ正面からがっつり取り組むことになり、どういう結果になるかは別としてそういう機会を頂けた事はScrumさまさまだったりします。1月15〜16日には秋葉原でScrumに関するイベントが開催されます。Scrumの実践者が集まり、最新の知見と事例を聞く事ができます(私も2日間参加します)。2013年は日本におけるプロダクトオーナー元年ではないかと個人的には思っております。自己組織化されたチームを作るのは当たり前の話として、プロダクトオーナーがチームと対話するためのプラクティスと、プロダクトオーナーが自身をドライブするためのプラクティス、ツール、フレームワークについての話題が活発になっていくものと思います。

 

"Quality of programming life"の実現を目指して今の自分がいます。おじいちゃんになってもプログラミングしていられるように、急がば回れで今年もがんばって行きます。(ちなみに今年は年男です)